6か国協議で共同声明〜「約束」と「合意」の違い
 お昼過ぎに飛び込んできたニュース。
 今朝まで「また休会になるんじゃじゃないの?」と言われてたのが一転、こういうことになりました。

北朝鮮が核放棄を約束…6か国協議で共同声明
 【北京=加藤隆則、池辺英俊】北朝鮮の核問題をめぐる第4回6か国協議は再開7日目の19日正午(日本時間同日午後1時)過ぎから、北京の釣魚台国賓館で全体会合を開き、新華社電によると、「共同声明」を採択した。

 共同声明の採択は2003年8月の第1回6か国協議開催以来、初めて。

 また、中国中央テレビは、中国首席代表の武大偉外務次官が、次回の第5回協議が11月初旬に開かれると述べたと伝えた。

 共同声明は、朝鮮半島の非核化実現に向けた原則的な目標を示したもので、全6項目。

 第1項では、北朝鮮が<1>すべての核兵器と現存する核計画を放棄する<2>早い時期に核拡散防止条約(NPT)に復帰し、国際原子力機関(IAEA)の査察を受ける――ことを約束したと明記。米国は、朝鮮半島に核兵器が存在しないことや、核兵器や通常兵器で北朝鮮を攻撃・侵略する意思がない事実を確認した。

 さらに、韓国は、1992年の「朝鮮半島非核化宣言」によって核兵器を搬入・配置しないとした約束を再確認し、現在、韓国領土内に核兵器がないことを確認した。北朝鮮が強硬に主張していた「核の平和利用」や軽水炉建設要求に関しては、「北朝鮮は核の平和利用の権利を有することを表明した。その他の各者はこれを尊重し、適切な時期に北朝鮮に軽水炉を提供する問題を討議することで合意した」としている。

 第2項では、米朝は「相互に主権を尊重し、平和に共存し、各自の政策に基づいて徐々に関係正常化を実現する措置を取ることを承諾した」と明記。日朝は「『平壌宣言』に基づき、過去の歴史を清算し、懸案を適切に処理するという基礎に基づいて、徐々に関係正常化を実現する措置を取ることを承諾した」としている。

 また、北朝鮮へのエネルギー支援については、第3項で、「日米など5か国が北朝鮮にエネルギーを援助することを望む」とし、さらに「韓国は200万キロワットの電力援助の提案を再び述べた」としている。

 全体会合は当初、午前8時半から開かれる予定だったが、同会合に先立って米中2国会談が行われた。米国首席代表のクリストファー・ヒル国務次官補は19日朝、宿舎のホテルで記者団に、「北朝鮮がいくつかの要求を持ち出している」と述べており、土壇場で最後の調整が行われたと見られる。
(読売新聞) - 9月19日14時32分更新

 これは「前進」なんでしょうか。
 日テレ「ニュースプラス1」及びテレ朝「報ステ」にゲスト出演した重村智計教授がわかりやすく解説してくれてたので、それも交えながら考えてみることにします。

 まずは重村教授の「外交用語」講座。
 これを知っておかないと、この共同声明の本当の意味は読みとれないようです。

「合意」 …… 法的拘束力あり
「約束」 …… 法的拘束力なし
「確認」 …… 法的拘束力なし
「表明」 …… 法的拘束力なし

 法的拘束力があるのは「合意」のみで、あとの3つは相手国の『善意』を期待する言葉でしかないそうです。
 これを踏まえた上で、続きをどうぞ。

 アメリカのヒル国務次官補は「参加国全員が勝者だ」と言いましたが、共同声明の内容を見ると実に曖昧な表現が多いんですよね。

すべての核兵器と現存する核計画を放棄する

 北朝鮮は放棄すると「約束」しただけ。「合意」したわけではない。よって北朝鮮がこれをどの程度やるのか不明。入口のところで時間がかかる。

早い時期に核拡散防止条約(NPT)に復帰し、国際原子力機関(IAEA)の査察を受ける

 早い時期とはいつか?言及がない。1年後でも早い時期だと言われたらそうなってしまう。査察の手順も具体的な言及がされていない。

北朝鮮は核の平和利用の権利を有することを表明した。その他の各者はこれを尊重し、適切な時期に北朝鮮に軽水炉を提供する問題を討議することで合意した。

 各者は「北朝鮮の核の平和利用の権利」を尊重するのか、あるいは「表明」を尊重するのか。尊重という言葉がどちらにかかっているのかわからない。どういうふうにも解釈できる。北朝鮮が勝手に「権利を有する」と言ってるだけという解釈も可能。

 重村教授によれば、今回の声明で「合意」がされたのは、「次の議会の日程決定」と「適切な時期に北朝鮮に軽水炉を提供する問題を討議すること」の2点のみだそうです。
 各国とりあえずうまくごまかしたものの、爆弾があちこちに仕掛けられていると。
 意義があったとすれば、それは「ここで戦おうという土俵というかリングを作ったこと」。つまり初期段階に来ただけに過ぎないと。
 
 テレ朝記者が北京から伝えたところによれば、共同声明が採択された後、金桂冠(キム・ケグァン)外務次官は非常に上機嫌で、日本の代表団に握手をしてきたそう。
 
 金桂冠が上機嫌だった理由、それは……。
 核問題は軍が権限を握ってるんですが、金桂冠は本国に帰った時に軍に説明しやすくなった。
 というのも、今回の声明では核の廃棄時期を明記していない。また韓国に核がないことも確認できた。しかも軽水炉提供について討議するという文言も入った。
 金桂冠にとっては大勝利というわけです。

 またアメリカも今回はどうしてもまとめたかった。
 なぜなら今回合意に達しないとブッシュ政権は内政問題もダメ、外交問題も能力がないと言われるから。
 ヒルも金桂冠もそこのところでは共通していたのです。

 また中国については、「今回見えないところでかなり北朝鮮に圧力かけただろう」と重村教授。
 「安保理に持っていかれたら助けられないよ」「10月10日の朝鮮労働党創建60周年の大会に胡錦濤が来られなくなるよ」「食糧支援やエネルギー支援を減らすよ」てな感じで。
 中国としても、今回まとめられないと『アジアの盟主』としての威信が低下してしまうという危機感があっただろうと。

 気になる拉致問題ですが、重村教授の意見としては「ある程度のとっかかりにはなるのでは」ということでした。
 これは、この前の選挙で小泉自民党が大勝したことが大きく影響していると。
 小泉首相はこれまで支持率が落ちたら訪朝してきた。だからそのうちまた訪朝するだろうと思ってたら、選挙で大勝してしまった。小泉首相にとって「北朝鮮カード」は不必要になった。
 しかもその後の会見で小泉首相は「私が三度目の訪朝をする可能性は極めて低い」と発言。この発言は北朝鮮にはショックだっただろうと。

 これは今回、北朝鮮が何度も日本と二国間協議をしたことにもつながっているようです。
 重村教授の見解によれば、北朝鮮側は小泉政権がどう考えているのか探る必要があった。「拉致問題、核問題をどの程度やれば日本は納得するのか確認しろ」と金桂冠は本国から言われていただろうと。
 北朝鮮は経済的に本当に困窮しているので、やはり日本からの援助は外せないのです。
 また二国間協議にはもう一つ意味があって、それは「『日朝正常化を推進すると佐々江局長が声明に書いた』と本国に言うことができる。これで金桂冠は責任逃れができる」とのこと。
 
 拉致問題解決の手段としては、やはり「拉致問題を解決しない限り、日本は国交正常化も援助も何もできないとはっきり言うこと」だそうです。重村教授が一貫して言ってきてることですね。
 ほんと、日本はこのままでは北朝鮮だけでなく他の国の思惑にも巻き込まれてしまって、最悪の場合、拉致問題を棚上げしたまま北朝鮮に援助するなんてことにもなりかねませんよね。

 共同声明に「北朝鮮と日本は、平壌宣言に従って、不幸な過去を清算し懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための措置をとることを約束した」との表現が盛り込まれたことで、日本側は「『懸案事項』という間接的な表現ながらも、拉致問題が明記された」と評価しているそうですが、それはあくまでこちら側の解釈。向こうはそのような解釈はしないでしょう。
 実際、平壌宣言に「拉致」という文字が盛り込まれなかったことをいいことに、北朝鮮はこれまでも「拉致問題は解決済み」と言ってまるで相手にしてきてないじゃないですか。
 またしても「拉致」は盛り込まれずに「国交正常化」は盛り込まれた。拉致家族の皆さんが危機感を持たれるのは当然です。

 ということで、北朝鮮にとっては実に良い結果になったんじゃないかと。
 核を廃棄すると約束(=拘束力なし)するだけで、まんまと安保理付託を回避し、軽水炉提供の討議も続けられることになったわけですから。
 しかも軽水炉と核廃棄、どっちを先にするのかすら声明には明記されていない。
 今回もまた各国、北朝鮮の時間稼ぎに付き合ってしまっただけで、何も進んでないように見えてしまうんですけど。

 ほんま理不尽ですわ。
 本来は何も条件なんか出せないはずの立場の国が、「ワシ、核持ってますねん」と宣言するだけで、あれこれ条件出せる立場になった。
 んで協議が始まって、最初に「自国にめちゃ甘く他国にはめちゃ厳しい条件」を突きつけてきて、周りはみんな「お前に上から物言う資格なんかないやろ!」と思いつつも、いつ暴れ出すかわからんし、各国、内政事情もあるから何とかなだめすかそうと頑張る羽目に。
 結局、北朝鮮が「しゃあないな。じゃあこれとこれは譲ったるわ。そのかわりこれは呑んでもらうで」って。
 北朝鮮が最終的に少しの譲歩をしただけで、周りは「まあ最初に言ってた条件を呑むよりはマシか」と受け入れて、「それなりに成果があった」と思い込んでしまってる……みたいな印象が拭えないんですが。

 今日、珍しくCNNを見てたんです。
 が、アメリカでは6カ国協議は大きく扱われてない。「その他のニュース」扱い。
 アメリカにとっていま大事なのはイランの核問題なんですよね。
 キャスターが6カ国協議に触れたなと思ったら、「ところで6カ国協議ではこうなりましたが、これはイランの問題にどういう影響を与えるでしょうか?」だって。こんな扱いしかされてないのが現実。

 今日はもう一つ北朝鮮絡みで気になるニュースがあったので、紹介しておきます。

北朝鮮、NGOに国外退去を要請…タス通信が報道
 【モスクワ=古本朗】北朝鮮外務省は19日までに、「秘密情報の国外漏えい防止」などを目的に、同国内で人道支援活動に携わる外国民間団体(NGO)に対し、12月までに拠点を閉鎖して国外へ退去するよう要請した。

 また、国連世界食糧計画(WFP)も、現在約60人の外国人駐在員を、4分の1の「15人以下」まで削減されることになった。

 タス通信が19日、「平壌の外国筋」の情報として平壌から報じた。同筋によると、今回の措置で国内で活動するNGO計約15団体の「事実上、全ての代表部が閉鎖される」見通しだ。「人道支援に関わる外国団体のスタッフを通じ、北朝鮮の秘密情報が再三、国外へ漏れる」状況に、国家指導部が不満を持ったためだという。WFPの人員削減に関しては、「海外からの食糧支援を断り、自国の農業、食品工業を発展させる」方針も背景にある、としている。

 余談ですが、「報ステ」の加藤千洋工作員は今週は休みだそうです。取材でチベットに行ってるんですって。
 そのうち「チベット自治区は中共による『解放』のおかげでこんなに平和で豊かになりました。人民軍もチベット民衆に歓迎されています」てな感じの捏造レポートが見られるかもしれません。

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Posted by くっくり 01:38 | 北東アジア | comments (10) | trackback (7)